ここでは降圧型スイッチングレギュレータの動作原理をインタラクティブ・シミュレーションを使って直感的に理解していきます.
使用する回路図は降圧型スイッチングレギュレータ(以下,降圧コンバータ)の基本的な構成を示していますが,
相補的に開閉するスイッチS1,S2をユーザがマウスクリックによって自由に制御できるところがポイントです.
一般にレギュレータを構成するスイッチはキロヘルツ[kHz]からメガヘルツ[MHz]のオーダーで高速にON/OFFを繰り返します.
このコンテンツでは電気回路の中で起こっているこのような高速のトグルスピードを体感的にぐーっとスロウダウン,
つまり現実世界の0.2ミリ秒約5000倍に引き伸ばし,私たちの体感として約1秒に一致するよう工夫しています.
電気回路の気持ちになりながら学べるわけですね!
また,回路図中の矢印は各素子に流れる電流を表わしており,リアルタイムでその大きさと方向を視覚的に表現しています.

降圧コンバータでは,相補スイッチS1,S2を利用してインダクタLの左端に入力電圧とグラウンドレベルをトグルする方形波電圧を
生成します.スイッチング周期とS1のオンタイムの時間比率(デューティ比)によって決まる方形波の平均電圧値が,
インダクタの働きによって抽出され最終段負荷抵抗へと供給される仕組みです.

それでは以下3つのSTEPに沿って降圧コンバータの基本原理について理解を深めていきましょう.

抵抗値を変化

まずは動かしてみよう

百聞は一見に如かず!ということで,まずは降圧コンバータを実際に動かしてみましょう.
STEP01の回路図では,降圧コンバータの特性を支配する4つのパラメタのうち負荷の抵抗値Rだけが可変になっています.
ここでは初期値1ohmのままで,入力電圧10Vを半分の5Vに降圧して負荷に供給することにトライしてみましょう.
回路図右となりのフォームで【Run】ボタンをクリックしシミュレーションをスタートしましょう.
インダクタの左端(vs)に時間平均値が5Vとなるような方形波電圧を生成できれば,出力部のLCRフィルタによりこの平均値が抽出され,
負荷に5Vを供給することができます.さて,一体どうすればこのような方形波を作りだすことができるでしょうか?
相補的にON/OFFするスイッチS1,S2の構成をみると,一定の時間間隔で継続的にスイッチを開閉(クリック)すればよさそうです.
それではS1(or S2)を大体の感覚でokですので1秒間に2回の頻度(スイッチング周波数5kHzに対応する速さ)でクリックし続けてみてください.
出力電圧voが5Vを中心としてうねる波形になれば大成功です!
出力の安定性は皆さんのリズム感(実機ではスイッチを駆動するゲートドライブ信号の周波数安定性)にかかっています(笑).
コンバータの気持ちがよく分かりますね!
より速いスピードでスイッチを開閉すると出力電圧のうねりの振幅(リプル)が小さくなり,きれいな直流を生成することができます.
これは素子パラメタが一定ならば,スイッチング周波数が高いほど出力の波形品質は向上するということを示しています.

過渡応答を観測する

次は負荷の抵抗値を変化させながら,降圧コンバータの過渡応答を調べてみましょう.回路図右となりのフォームからResistance [ohm]
の値を10に設定します.シミュレーションをスタート(【Run】ボタンをクリック)し,先程と同様にスイッチをトグルしてみましょう.
負荷抵抗が10倍になったことで,出力が安定しにくく目標値から大きくオーバー(アンダー)シュートする振動波形が負荷に印加される様子が
観測できます.負荷の要求電圧が5Vや3.3Vであるような場合,耐圧超えで負荷を破壊してしまう危険があります.
これは負荷抵抗がLCの特性インピーダンスに比べ大きくなったことにより,出力部LCRがフィルタではなくむしろLC共振回路にみえてしまう
ことが原因です.ここでスイッチのトグルタイミングをこの共振周波数に同期させると(トライしてみてください)・・・
もっとコワイことが起こります!LCタンクによる発振がどんどん成長していく,いわゆる共振現象を観察することができますね.


Input Voltage [V]

Resistance [ohm]

Inductance [uH]

Capacitance [uF]





インダクタンス・キャパシタンスを変化

臨界制動・過制動・不足制動の観察

STEP02の回路図を使って降圧コンバータの過渡応答の変化についてみていきましょう.ここでは負荷の抵抗値を固定(1ohm)して,
インダクタンスL・キャパシタンスCの値を変化させます.はじめに初期値L=400uH,C=100uFでシミュレーションをスタートします.
回路図右となりのフォームで【Run】ボタンをクリックし,出力電圧voと負荷電流iRがそれぞれ10V/10Aに安定するまで回路の過渡応答を
観察してみましょう(出力が安定したら今度はスイッチS2を閉じてvo/iRが0V/0Aに収束するまでの様子を観察してみましょう).
結果,出力にオーバー(アンダー)シュートが発生せずvoはvsをめがけて速やかに収束することが分かります.このような応答は 臨界制動
と呼ばれ,抵抗値が1ohmの場合はLとCの比がちょうど4:1のときに実現します.
次に,LCのバランスを崩して過渡応答の変化をみてみます.回路図右となりのフォームでInductance [uH]の値を1000,Capacitance [uF]の値を
100に設定し同様のシミュレーションを行うと,臨界制動に比べて過渡応答の収束が遅くなることが分かります.Lの値が大きくなったことで,
インダクタ電流iLの変化がググっと抑制され出力キャパシタを充放電するスピードが遅くなったわけです.このような応答を過制動と呼びます.
過制動ではスイッチング時の出力の安定性は優秀ですが,目標電圧に収束するまでの時間が長いという点がデメリットになる場合もあります.
次はLCの比を逆方向に振ってみましょう.フォームからInductance [uH]の値を100,Capacitance [uF]の値を1000に設定します.
今度は出力と各素子の電流に大きな振動特性(リンギング)が現れます.これはSTEP01で負荷抵抗の値を10倍にしたときと同じ条件
にヒットした(LCの特性インピーダンスに比べて相対的に負荷抵抗が大きくなった)ことで発生した応答で,不足制動と呼ばれます.
大きなオーバー(アンダー)シュートによって過渡的に負荷・インダクタンス・キャパシタンスに危険な過電圧がかかるため,
行き過ぎた不足制動には注意が必要です.
Cに対してLを相対的に小さくとりたい場合(例えば設計上キャパシタは削りたくないがインダクタは小型化したいときなど)には特性が不足制動
寄りになります.実際の降圧コンバータでは,このような場合でもフィードバック制御で不足制動をうまく補償して最適な応答速度と安定性が
得られるように工夫しています.制御技術ってスゴイですね!


Input Voltage [V]

Resistance [ohm]

Inductance [uH]

Capacitance [uF]





フル・コントロールで特性を観察

自由に設計して遊んでみよう

最後にSTEP03の回路図を使って,入力電圧:Input Vontage[V],負荷抵抗:Resistance[ohm],インダクタンス:Inductance[uH],キャパシタンス:
Capacitance[uF]の4つのパラメタを設定し,様々な条件下での降圧コンバータの特性を観察してみてください.
例えば負荷抵抗が5ohmのとき,出力電圧voの過渡応答に振動特性が出ないようにするにはLとCをどのような値に設定すればよいでしょうか?
(ヒント:L/Cの値を思い切ってある方向に振る必要があります).
またRを1ohm,Lを1000uH,Cを250uF(臨界・過・不足制動のどれになるでしょう?),入力電圧を12Vに設定し,S1のスイッチングの
デューティ比が1/3になるような制御(4分の3拍子で1拍目と3拍目にスイッチをクリック!)で出力電圧を約4V(=12/3)に調整することにトライ
したり,出力のインパルス応答・ステップ応答を様々な条件で実験することも降圧コンバータを深く理解するために大変役立ちます.



Input Voltage [V]

Resistance [ohm]

Inductance [uH]

Capacitance [uF]





まとめ

ここでは降圧コンバータをインタラクティブに操作することにより直感的・体感的にその動作を概観しました.
パワエレの回路を理解する際には,特にインダクタとキャパシタにおける電流・電圧の時間発展を定性的にイメージできる力がとても重要になります. このコンテンツでは,回路のスイッチングに伴う各素子の電流の瞬時値を赤矢印の変化によって直接視覚的に捉えることが可能ですので,
自分の予想した電流の動きとシミュレーションの結果が定性的に合致するようになるまで,是非繰り返しイメージトレーニングをしてみてください. また,実際の降圧コンバータではスイッチ素子S1,S2をトランジスタやダイオードによって実現しています.これらの特性を加味した考察については, 別のコンテンツで解説していきますのでお楽しみに!